公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【2】 各地裁判のたたかいの報告(大気汚染)
〔4〕 名古屋南部あおぞら裁判・道路連絡会の報告
弁護士 松本篤周

1  はじめに
 01年8月全面解決和解が成立し、6年あまりが経過した。和解を契機として設置された道路沿道環境改善に関する連絡会(略称連絡会)の取り組みの到達点について、報告する。23号の交通量を減らして、道路からの大気汚染物質を減らして、大気汚染をなくすことが課題である。そのための車線削減であり、交通量調査であり、大気汚染の測定である。これがどうなってきたか、という観点から報告する。

2  国道23号沿道の大気環境
 和解により国土交通省によって新たに設置された23号沿道の6つの測定局の19年度の4月から10月までの中間集計によると、NO2では南区要町で1日平均値が0.06ppmを超えた日が既に29日になっており、環境基準が達成できず、いろは町と宝神もそれぞれ3日、4日となっていて、達成が危ぶまれている。SPMについても、1日平均値が0.1ppmを超えた日が南区要町と熱田区伝馬町が5日となっており、これも達成されない可能性が高い。いずれも18年度よりも悪化傾向を示しており、深刻な状況にある。

3  名古屋南部道路環境連絡会
(1)  これまでの取り組み
 第1回 02年5月17日(金)に名古屋港ポートビルにおいて弁護団、専門家、患者会役員のほか原告ら約60名の参加の下に開催されて以降、毎年一回開催され、2007年6月で第6回が行われた。その間に毎年3回ないし4回の準備会が開催されてきた。
(2)  原告側の要求
 和解から2年後である03年12月に、和解条項の発展として下記の申し入れをした。
① 大型車の交通量削減のための総合的な調査の実施
 国土交通省は、名古屋南部地域(以下本件地域という)における交通負荷の軽減・大型車の交通量低減のための施策を総合的かつ効果的に進めるために、事業主団体等の協力を得て、大型車の運行経路、運行経路選択要因等に加え、大型車の運行実態(頻度、時間帯等)、車両の年式、ディーゼル微粒子除去装置装着の有無、交通規制や本格的な環境ロードプライシングが実施された場合の運行経路選択に係る意向等に関する別紙調査を実施すること。
② 環境ロードプライシングの試行
 国道交通省は、前記(1)の調査結果を分析評価するとともに、新たな取り組みについて交通量や環境への効果・影響を調査検証する社会実験の活用などにより主体的に検討を行い、本件地域における大型車交通量を削減する観点から、本格的な環境ロードプライシングを検討、試行すること(但し、伊勢湾岸道路周辺の環境を悪化させない対策をとること)」
(3)  和解合意に基づく交通量調査の問題点と今後の課題
① 交通量調査の状況(湾岸開通により減少傾向)
 和解後毎年7月に交通量調査が行われている。2007年の交通量調査の結果(7月4日)によると、23号の交通量(一日)が昨年比3,500台減少した。
 6年間の経過を振り返ると、23号の総交通量の絶対量は、調査が開始された01年の8万9,900台(内大型車3万9,300台)から03年に8万6,200台(内大型車3万6,700台)になりわずかに減少したが、04年に増加に転じ、05年には9万7,000台(内大型車4万2,100台)まで増加してしまった。しかし、06年からは再び減少傾向に転じ、07年には9万2,200台(内大型車3万9,000台)となっている。6年前との比較でいうと、総交通量で2,300台の増加(但し、大型車は300台減少)となっている。
 これに対して、伊勢湾岸道は01年に1万5,000台(内大型車4,100台)であったが、毎年増加し続け、07年には5万8,300台(内大型車2万8,800台)となり、全車で約4倍、大型車については7倍となっている。ただ、06年から07年にかけての増加は大型車のみ2,000台の増加で、その他の車両は全く横ばいとなっている。
 このうち、ロードプライシングを検討する上で特に重要と考えられる通過交通についてみると、名古屋南部地域における中央断面の通過交通(中央、東側、西側の各断面の内、複数断面を通過する交通)以下の通り。
1 伊勢湾岸自動車道、国道23号、国道1号の総通過交通量(日)は、約6.3万台
2 伊勢湾岸自動車道を通過する交通量は、約4.0万台(昨年比1,100台増加(交通分担比3ポイント増加して62%))
3 国道23号を通過する交通量は2.2万台(昨年比2,500台減少(交通分担比3ポイント減少して35%))
 さらに3断面通過交通量の交通分担比は、伊勢湾岸道71%(約1.5万台)、23号28%(0.6万台)となっている。  通過交通について中部整備局は「通過交通の分担比に着目すると国道23号は減少傾向にあり、伊勢湾岸自動車道は増加傾向にある。このことから、国道23号から伊勢湾岸自動車道への通過交通の転換傾向が見受けられる。」と評価している。
 上記の評価については、現象面だけから見れば、一応そのように評価はできるかも知れない。しかし、問題は、伊勢湾岸道路開通が全体として交通量増大の呼び水となり、名古屋南部全体の交通量が増加する(約19万台で、01年から約5万台=30%増加)中で、23号全体の交通量は01年の交通量から変わっていない、ということである。中部整備局側は「23号の交通量を増加させないできた」と評価しているが、名古屋南部全体の交通量増加の原因は、伊勢湾岸道開通にあることは明らかであると考えられるので、現時点では、伊勢湾岸道により、名古屋南部全体の交通量を増加させただけに止まっている、と評価せざるを得ない。すなわち、「湾岸道路を造っただけでは、自然に23号の交通量が減少することはない」ということが事実をもって証明された、ということを確認することが重要であろう。
 従って、23号沿線の大気環境の改善は、湾岸の料金減額による誘導と23号の車線削減により、湾岸に交通量を誘導することにより23号の交通量削減をいかにはかるか、という点にかかっているといえる。
② 「国道23号の交通量低減に関する意向調査」について
 原告側の要求の柱の一つであった懸案の「①大型車の交通量削減のための総合的な調査の実施」が07年10月24日に実施された。対象は、事業所、道路利用者、沿道居住者などで、回収数2万1,490通(回収率33%)であった。アンケートの集計は、07年度内に単純集計、08年度中頃にはクロス集計を完了する見込みである。
 アンケート結果の評価を踏まえ、23号の車線削減及びロードプライシングによる湾岸線への交通量の誘導を組み合わせた政策を早急に具体化させ、抜本的な交通負荷の軽減と大気環境の改善を実現すべく頑張りたい。
③ 環境施設帯整備について
 和解のもう一つの柱である沿道整備は、和解後6年が経過したが、進捗状況ははかばかしくない。あくまで任意の協力という手法によっており、都市計画法などに基づく強制力のある方法をとっていないという限界があり、当面の重点地区となっていない環境施設帯予定地に新たに建売住宅が建設されてしまう例などもあり、一部に計画に逆行する事態も生まれている。この点では、住民への周知がさらに工夫されるべきである。
 中部整備局としては、住民アンケートにより過半数以上の賛成の得られた8地区を優先整備地区として整備を進める方針を立て、メリハリをつけた計画進捗をはかろうとしているものの、まだ相当の日時を要する見通しであり、抜本的に取り組みのテンポを引き上げる必要がある。

4  まとめ
 昨年は伊勢湾岸への迂回のためのアンケート調査の実現など、具体的な進展が見られたが、大気汚染の現状は相変わらず横ばいないしやや悪化の傾向が見られる。沿道整備も、優先地区を決めた取り組みが本格化しつつあるが、「命あるうちに青空を」という被害者の切実な願いにはほど遠いというのが現状である。弁護団としては引き続き努力を重ねる所存です。
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