公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【2】 各地裁判のたたかいの報告(道路建設差止)
〔2〕 圏央道あきる野土地収用事件について終結の報告
弁護士 吉田健一

1  最高裁の不当な判断
 2006年2月23日の東京高等裁判所民事24部(大喜多啓光裁判長)の逆転敗訴を受けて、上告及び上告受理申立を行い、最高裁への取り組みを進めてきた。ところが、最高裁(第2小法廷)は、07年4月13日、土地収用を受けた住民らの上告を棄却し、かつ上告審として受理しないことを決定した。一度も法廷を開かずに、一方的に書面を送りつけて来て事件を終結させるという、きわめて不当な対応である。
 4月17日、弁護団及び地権者は、牛沼土地収用反対裁判を支える会とともに、別紙の「最高裁の不当決定に断固抗議する声明」を発表し、これを最高裁に送付して抗議した。しかし、残念ながら、すでに牛沼地区の圏央道は完成し開通しており、ここで裁判闘争を終結することとなった。

2  たたかいの残したもの
 07年6月9日、取り組んできた住民や支える会として報告集会をもち、8月には総括合宿を行った。これらを通じて、私たちのたたかいは何を提起し、何を残したかなどについて、まとめを行った。
 特に、一審の東京地裁判決(04年4月22日)は、公害を発生させる道路建設を否定し、公共事業の必要性を厳しくチェックして、土地収用手続きの違法性を明らかにして、事業認定及び収用裁決をいずれも取り消した。それに先行して一審裁判所は、「終の栖」を奪うことは認められないとして、一審判決までの収用手続の執行停止を決定し、道路建設を差し止めた。これらはいずれも、高裁段階で覆されたうえ、最高裁は高裁の不当な判断を追認した。
 しかし、住民の指摘した問題を重視し、これに答えた一審判決の大きな意味を消し去ることはできない。それは、日本の公共事業や道路行政に対する重要な問題提起であるとともに、公害反対のたたかいや裁判の成果をふまえ、しかも、これまでの裁判の限界を踏み越えて、道路建設そのものにストップをかけるものである。
 また、たたかいを通じて、住民参加や適正な手続に反する土地収用手続の問題点も浮き彫りになった。行政の計画した事業を進めるための結論ありきのアセスメント、行政官僚主導のもとに強権的に「審理」を進める非民主的な収用委員会の手続など、問題は山積している。それでも、土地収用法「改正」以前に行われたあきる野地域に関する収用委員会では、あきる野市現地での開催を含め10回に及ぶ公開審理で実質的な審理を実現し、建設省のやり方は現代の「悪代官」だと地権者から鋭い批判の声を突きつけた。
 他方、あきる野地域の圏央道建設工事に関しては、裁判闘争の渦中に橋梁談合事件の対象ともなり、誰のための事業なのか、という根深い問題へと波及した。しかし、それらは全く顧みられることなく土地収用手続、そして道路建設工事が強行されていったのである。

3  住民のたたかい
 本件では、江戸時代から先祖代々生活を続けてきた旧家の住民が不当な土地収用、道路建設に反対してたたかった。そのたたかいの一つ成果として、旧家の屋敷内に発見された7世紀に造られた古墳が、建設された圏央道の橋桁につぶされることなく、保存されている。
 しかし、建設された道路からは、昼夜をわかたぬ騒音や振動など道路公害が現実のものとなっている。大気汚染の激化も心配されている。収用された土地に道路を建設され、そのために発生する道路公害に悩まされている住民は、悲惨である。住民にとって、問題が終わったわけでは決してないのである。
 現在、土地収用をめぐって続けられている高尾山でのたたかいを通じて建設そのものの差し止めを実現するとともに、圏央道建設のもたらす問題点をいっそう明らかにし、公害を防止することも必要となっている。
 最後になりますが、ご支援、ご協力いただいた皆さん、ありがとうございました。
 なお、圏央道あきる野土地収用事件弁護団のメンバーは、昨年12月25日提訴した国分寺市内の都市計画道路に関する事業認可取消訴訟の代理人として引き続き取り組んでいますので、今後ともよろしくお願いします。
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